リーダーの挨拶 リーダーの挨拶
心筋細胞の機能は収縮によって心臓の血液ポンプ作用(血圧の維持)を支えることです。その心筋細胞の収縮は、大変多くの機能が総合されて始めて発揮されます。まず、収縮力を支えるエネルギーを必要としますが、その殆どは細胞のミトコンドリアで酸素と栄養素を使って作られます。筋肉を構成する細胞の数は数億を超えますが、全ての細胞がいっせいに収縮するために、それぞれの細胞は電気的な信号をつくり、相互に連絡します。(これを体の表面から観察するのが心電図検査です)。次に電気的な信号は、カルシウムイオンの移動によって細胞の中のカルシウムイオンを瞬間的に増加する仕組みをスタートします。瞬間的に増えたカルシウムイオンは筋細胞の中に整然と配置された収縮線維(アクチン、ミオシン)に働き、細胞の収縮をもたらします。更に、私たちの心臓は、速くなったり遅くなったり、あるいは収縮力を変化して、体全体の働きにあったポンプ作用をしていますが、これはホルモンや自律神経の働きによって心筋細胞の働きが常に調節されているからです。
 これまで、100年あまりの研究の歴史を通じて、莫大な費用と、世界中の研究者の努力によって、それぞれの仕組みを支えるタンパク分子の働きが明らかにされてきました。しかし、これ等の細かい仕組みと相互の関係を全て考え、細胞の全体の働きを理解することは、ヒトの能力を超えて、あまりに複雑で大変難しいことがわかってきました。これを解決する方法はコンピュータです。幸い細胞を構成する分子の働きは数学式で表現できるのです。コンピュータを使えば、それらの数学式を連立方程式として、解いていくことができます。実際、心筋細胞の機能を数学式の解として表すことが可能になってきました。更に愉快なことに、細胞を立体的に配置して、心臓をコンピュータ上に作り、その拍動を再現できそうです。これらを今バイオシミュレータと呼びましょう。これまで、経験をつんだ研究者だけが理解し予測できた人体の働きが、バイオシミュレータを使えば誰でも理解できる時代になろうとしています。
プロジェクトリーダー 京都大学医学研究科 教授 野間昭典 もちろんバイオシミュレータは、薬剤の働きを理解するためにも役立つし、病気の治療の方針決定にも役に立つものになるでしょう。京都大学では、産業界からの応援もいただいて、医学者、薬学者、生物学者、情報学者、工学者が力をあわせて、誰でも使えるバイオシミュレータを作る努力をしています。